2011/3/16

連載「過去のカウンセリング事例」A-(3)

■<連載>過去の事例から■
本連載は、過去のカウンセリング事例を、相談者個人や学校・生徒の特定・限定ができない表現の範囲内という条件で相談者の了解を得て報告するものです。  これから相談をご希望される先生が、当相談室にての相談の内容や様子をご理解いただく上で、ご参考にしていただければと思います。

★小学校・岩崎(仮名)先生とのカウンセリング(3)

 事件から3ヶ月間、つまり相談メールが届くまでの間、学年会議でK君の指導を巡る問題の話し合いはありませんでした。以前までは毎回のように学年主任W先生から、会議の最後にK君についての共通理解を深める意味での議題提起がありましたが、レジメに「K君の問題について」という文言は消えてしまいました。
 岩崎先生は、ひとまずK君の問題行動については文書にして報告はしましたが、「指導すべきは担任」という、他の先生方も触れたくない話題のような雰囲気があり、岩崎先生も自分から報告することはやめようと決意されたようです。
 実は、K君はW先生やG先生と廊下などですれ違うたびに「人殺し先生!」とおもしろがって言うようになり、そのことを巡ってW先生とG先生は、執拗に指導の是正を岩崎先生に詰め寄るようになったのです。
 特にW先生は、ことある事に、
「何で私が人殺しと言われなあかんの?しっかり指導なさいよ!」
「先生がK君の問題行動を見て見ぬふりをするから、K君が調子に乗るのよ!」
「K君は4月から全然変わってないよ! かえってひどくなったのは、岩崎先生のせいと言われても仕方ないよ!」
 と、職員室にて他の先生に聞こえることを承知での苦言だったと言うことです。

 そして、9月下旬、この問題はW先生のクラスの保護者会(授業参観後の懇談会)で話題に上りました。
 「子どもが家で先生(W)が人殺しみたいに言われていると言っていますが、なんのことですか?」という質問に始まり、岩崎先生のクラスのK君のことと岩崎先生の指導の有り様まで意見が出されたようですが、W先生の説明や報告が不十分だったのか、その質問された保護者が保護者会(育友会)の学年長であったことから、学校長への抗議と発展したのです。

 翌日、岩崎先生とW先生は、学校長から説明を求められました。
「『人殺し』と言い続けているのは事実かどうか?」
「それに対して、岩崎先生はどういう指導をしているのか?」
「学年集団で論議して取り組んでいるはずだが?」
「W先生から見て、岩崎先生の指導はどうなんですか?」
「岩崎先生は、来年3月まで大丈夫ですか? 担任を変えろと抗議されてもそれはできませんから」

 岩崎先生がショックを受けたのは、最後の学校長の言葉でした。
「疲れているからと言って頻繁に休まないでくださいよ。数日連続して休む時などは、教頭先生に相談してくださいよ。」
 岩崎先生は、その日まで時間休は取ったことがあっても、年休で休んだことはありませんし、休みたいとは思うことをありますが、誰かに話したこともありません。代行を入れることを想定しているかのような言葉を聞きつつ、自分では到底解決できないようなところに来てしまっている事態に、「一人の生徒の問題行動も解決出来ない自分」に教師としての意欲が消えていくことを感じたそうです。
 W先生が、「学年で話し合って、何とか頑張ってみます。」とでも言ってくれれば、少しは岩崎先生の気持ちも前向きになったのかも知れませんが、「私はK君を許しませんよ。もっと厳しく対処すべきです。言ってはならないことがあるのですから。」というW先生の発言は、学校長から学年集団での解決を促されていながらも、問題がもはやW先生対K君の図式になっている様相にも愕然とされたのでしょう。

 相談室に届いた岩崎せんせいの相談メールには、細かなそれまでの経過と次のように具体的に相談内容が記されていました。

「生徒の問題行動への対処方法を教えて欲しい。特に、教師の指導が入らない低学年指導への対応を宜しくお願い致します。」
「学年集団や教師集団で孤立している自分を感じてしまい、日常的に先生方とどういう風にコミュニケーションをとっていけばいいのか? 何かしら自分の指導力量への批判の目が厳しく感じて、職場へ行くのがやっとという日が増えてきてつらい毎日です。考え方を変えないといけないことはわかっていますが、どういう風に考えればいいのでしょうか?」

 私は、事実経過や相談内容が相当明確に記されていたので、岩崎先生が心理的に追いつめられている状況は深刻ではありましたが、緊急事態には至っていないと判断し、先生方とのコミュニケーションを再び築くことに力を注ぐより、K君への指導の内容をより具体化し、先生の行動を相互に評価しながら、まずは、先生の指導の有り様を少しでも変える方がベターではないかと思いました。
 K君に対して、明日からどう取り組むのか、その具体的な指導内容を明確にし、その進捗状況を分析・評価しながら、目の前でおこっている事象をポジティブに捉えていけるようになるまでのカウンセリングが主要と判断しました。
(続く)

< NIWA教育相談室(大阪) >
TEL.06-6191-9007/FAX.06-6191-9005
〒543-0021 大阪市天王寺区東高津町9-23 ロロモチノキビル5F
Copyright© 2011 通信制高校生徒と心の問題を抱える先生のための教育相談室「NIWA教育相談室(大阪)」