第61回
相談事例(34) 「本当に普通の会話が大切なんですね!」 発達障害(アスペルガー)を抱える中3生剛君(仮名)は、2学期から不登校状態でした。絵を描くことが好きで、中1から週2日絵画教室に通い、進学塾にも通いながら楽しい生活を送っていたのですが、絵画教室の先生とのトラブルがあり、やがて通えなくなり大好きだった絵画教室をやめる結果となりました。そこから剛君の生活は変わり始めました。目的意識を失ったごとく、ゲームや動画に夢中になり塾もやめ、ついには学校へも通えなくなったのです。ゲーム三昧、昼夜逆転、親への反抗・暴言、そして「人生終わった、自分はバカ、毎日しんどい」などのネガティブな発言は続き、クリニック受診も拒否、外出も一切しないという生活が3カ月も続くのでした。
お母さんの苦悩は続きます。話をしようとしても暴言が返ってくるだけです。唯一の楽しみを失い、学校では人とのコミュニケーションが取れずストレスを抱え続けてきたことは分かっても、高校進学の目途も立たない我が子にどう向き合えばいいのか分からず、もう発達障害のことを本人に伝えたほうが良いのかとまで考え込んでしまいました。相談室へ来られたお母さんは、お母さん自身もストレスで限界にきている様相でした。
この連載をお読みいただいている皆さんには、この状況での対応策は何よりも剛君とお母さんが、いわゆる普通の会話ができるところまで親子の関係を回復させることが第一であることは分かっていただいていると思います。私も多くを語らず、毎日、普通の会話を交わす具体的な言葉かけをいろいろ提案し、その日から取り組んでいただきました。会話がうまくいかないときは、その時の様子を電話で教えていただき、細かくアドバイスするということを続け、お母さんは我が子に暴言を吐かれながらでも、根気よく話しかけ続けられたのです。現在まだ、親子関係が十分回復したとは言えませんが、剛君は4月から通信制高校に通いながらアルバイトも始めています。我が子が少し歩み始めた喜びが、お母さんから届いた「本当に普通の会話が大切なんですね!」というメールに込められていたと思います。
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